未曽有の黒字大リストラ時代が到来

 

大手企業による未曽有の黒字大リストラ時代が到来

クローズアップされたバブル期の負の遺産

キリンビール、サッポロビール、コカ・コーラボトラーズ、ダイドー、味の素、中外製薬、大正製薬、アステラス製薬、エーザイ、協和発酵キリン、富士通、NEC、東芝、オンキヨー、カシオ計算、日産自動車、曙ブレーキ、日立金属、LIXIL、オンワード、レナウン、アルペン、三越伊勢丹、セブン&アイ、ファミリーマート、朝日新聞…。

2019年に入ってからは、トヨタ自動車の豊田章男社長による“終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた”と発言して話題になり、経団連の中西会長による“新卒一括採用、年功序列、終身雇用がセットになっている日本型雇用システムの見直しを議論すべきだ”との姿勢が注目された。そして、かつては「終身雇用」、「生涯安泰」と言われたような上記で挙げた大手企業による早期・希望退職募集のニュースが相次いでいる。

1. 大手企業による黒字リストラ

特筆すべきは、近年では業績好調にもかかわらず「黒字リストラ」に踏み切る企業が目立ち、リーマンショック以降のリストラとはその性質が明らかに異なっているという点だ。その業界特有の将来的な事業環境悪化や政府が検討している高年齢者雇用安定法の改正(70歳まで雇用延長)を想定した背景もあるが、その目的は主に下記3点に集約される。

➀ 年齢構成の適正化、人件費の圧縮、外部人材活用の促進
② 将来の環境変化を見据えた事業構造改革、選択と集中
③ 大幅な人事制度改革、年功序列型賃金制度の撤廃

今回のリストラにより、大手企業が抱えてきたバブル期の負の遺産が30年という年月を経てあらためてクローズアップされることになったが、同時に未曽有の黒字大リストラ時代が始まったともいえる。

あまり馴染みのない世代のために補足しておくと、日経平均株価が最高値を付けた「バブル期」(1985~1991年)は、株価や地価が過度に高騰し、加熱した消費や財テクブームを巻き起こした時期で、同時に企業も派手に大量の新卒を採用した時期でもある。このバブルに踊り、踊らされた時期は一億総中流の日本が階級格差時代へ転換し、バブル崩壊がその後の低成長時代消費低迷時代につながることになるので、現在と当時の消費者意識・購買行動調査データを比較してみると面白いだろう。

2. 風当たりが強いバブル世代

いずれの企業も「不必要な人材を放出し、硬直化した組織を活性化させたい」という思惑がある点は概ね共通するようだが、その中でも特にバブル期に大量入社した現在の「バブル世代」に対する風当たりが強い。バブル崩壊後に新卒採用が急激に抑制された就職氷河期世代」とは異なり、企業の組織全体に占めるこのバブル世代の割合は必然的に大きくなっており、皮肉なことにそういう世代に限って定着率も高い。最近は、バブル世代の中でも高給取りでありながら仕事のパフォーマンスやモチベーションが低い男性社員に対しては、“働かないオジサン”、“50G”といった呼称を使ってメディア上で揶揄されてしまっている。

3. 企業経営を圧迫する人件費

過去に早期・希望退職を募集して大幅に人員を削減して今なお改革を迫られている「パナソニック」は、等級に関わらずほぼ全ての管理職が年収1,000万円以上、同じく実態として年功意識が根強い「電通」、「武田薬品」は社員の平均年収が1,000万円以上、今回の「味の素」は、単体の全従業員約3,500名のほぼ半数が管理職。経営環境の変化が激しい昨今、未だにこのような人事制度を踏襲している企業が存在していることに驚きを隠せないが、必要以上に膨れ上がった人件費が早かれ遅かれ企業経営を圧迫することになるのは、自明の理とも言えるだろう。

厳しい『時代』を生き抜く

大手企業をリストラによって50歳で去ることになった場合、割増退職金といったインセンティブを一時的に得ることができたとしても、老後の年金受給を当てにできない少子高齢化時代、あまりにも長すぎる人生100年時代を考えると、大半の人は次の新しい職探しをすることになるだろう。しかし、いくら人手不足の労働人口減少時代とはいえ、希望する業種・職種、あるいは年収で転職を実現できる人は、特定分野で熟練した技能や高度な専門技術を発揮できる一部のエキスパートに限られる。これが転職市場の現実だ。

職種で選ぶ「就職」ではなく、会社を前提として「就社」した日本の伝統的な大手企業では、会社というある種の狭い「コミュニティー」の中で長い年月をかけてロイヤリティや人間関係が醸成されていくという側面が強い。エレファントシンドロームのような話だが、その閉鎖的なコミュニティーの中で定期的な異動や転勤によってキャリアをコントロールされていく内向き思考の社員は、得てして外の世界で通用する専門スキルを身に付けていくことが難しい。会社の終身雇用年功序列を拠り所としてマインドセットが極度にサラリーマン化してしまった中高年は、直ぐに結果が求められる即戦力の転職市場では残念ながら必要とされない。年収と実力にギャップがあれば尚更だ。

中小企業からの中高年に対する需要が統計的に高いのは事実だが、厚生労働省の「労働経済動向調査」、及び「雇用動向調査」によると、人手不足とされる業界の上位は、➀運輸・郵便業 ②サービス業(他に分類されないもの) ③宿泊・飲食サービス業 ④建設業 であることを付け加えておく。

また、これから本格的に到来するAI/IoT/ビッグデータ時代では、米国に比べて導入・活用がまだまだ遅れている日本でも、コンピュータやロボットが業務効率・生産性の向上、省力化・無人化、労働力の補完を担っていくことになるため、ますます居場所がなくなってくるだろう。

歴史・地質学上の観点だけではなく、政治・経済・社会・技術の観点からも区分される、これらの時代。かの有名な中島みゆきさんの名曲で、“時代は廻る、時代は巡る”と歌われてきたが、私たちが直面する厳しい『時代』は、これから果てしなく続いていくのかもしれない。

プロフェッショナル・リクルートメント事業部
樋口 拓摩